女性の健康をサポートする薬局薬剤師
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- 1月8日
- 読了時間: 7分
更新日:3月6日
特集
未来の社会や地域を見据え、多様な場や人をつなぎ活躍する薬剤師
―年代に合わせた悩み相談や性の課題にも取り組む―
OGP薬局荒川店 鈴木怜那さん

病院やクリニックで診察を受けた後、処方箋を持っていく薬局には、地域住民の健康な生活をサポートする役割もあります。薬局薬剤師として働いているOGP薬局荒川店の鈴木怜那さんは、女性の健康サポートに力を入れており、年代ごとの悩みに合わせた講座や相談会を定期的に開く他、「SRHR※1pharmacyPROject」という団体も立ち上げて、思春期の性の相談にも熱心に取り組んでいます。具体的な活動内容や、薬剤師としての思いを伺いました。
地域貢献は薬剤師の基本業務でも女性向けケアは少ない
——女性のヘルスケア講座、思春期の性相談など、とても幅広いことをやっていらっしゃるのですね。
薬局の薬剤師というと「処方箋を渡したら奥でお薬を用意してくれて、薬の注意点を説明してくれる人」。こんなイメージでしょうか。もそれは薬剤師の仕事の一部でしかありません。薬局の薬剤師の第一の仕事は「地域の人々が健康に暮らせるサポートをすること」。つまり、病気の人だけではなく、健康な人にも働きかけて健康に暮らしていただくためのサポートをすることが薬剤師の本来の仕事であり、その中に「処方箋にもとづいて調剤する」という仕事が含まれています。薬局では、薬のことはもちろん、健康食品やサプリメントなどの栄養に関することや食事、運動、生活習慣など幅広くサポートしています。
処方箋を持ってきた患者さんに対しても、例えば、貧血の薬が処方された女性には月経の問題を抱える人も多いので「月経は順調ですか」と尋ねたりします。糖尿病の患者さんは目に影響が出やすいため「眼科で検査はしていますか」と聞くこともあります。質問をきっかけに、気になっていた症状を相談してくださる人もいます。

——女性の健康サポートの具体的な内容を教えてください。
女性が抱える課題や悩みにあわせて、年代別にミニ講座や相談会を開いています。
小学校高学年から思春期にかけては月経が始まり、月経痛や月経前症候群に悩む人が多くいます。自分に合った月経用品を選ぶことも大切です。20代以降も引き続き月経の悩みに加え、子宮内膜症、不妊、妊娠・出産など、ライフステージの変化に伴い、いろいろな課題が出てきます。その後は更年期で女性ホルモンが減少することによるさまざまな不調があり、閉経後には、高血圧や骨密度減少・骨粗鬆症※2のケアや治療が必要です。10代から人生の最期まで、女性にはいろいろな課題がありますが、特に相談やケアをせずに過ごして状況を悪くしてしまう人もいるので、身近な存在である薬局だからこそ、役に立てることがあります。
——特に女性のヘルスケアに力を入れているのはどうしてですか。
私自身の妊娠・出産の経験、周囲の同年代の友人の悩みなどから、女性のヘルスケアに関する情報や女性の悩みを支える機関の少なさを実感しました。多くの人は仕事や家事で忙しく、自分の体のことを考える時間さえ持てずに、後回しになっている現実もあります。また、高齢者向けヘルスケアに力を入れる薬局はよくありますが、若い方を含めて女性のケアを積極的に行う薬局はまだ少ないのが現状です。地域に貢献する薬剤師として、力を入れる価値がある分野だと思いました。
性と生殖に関する権利の浸透にも力を入れて思春期の悩みにも向き合う
——一般社団法人「SRHRpharmacyPROject」を立ち上げて、特に思春期の性やヘルスケアのサポートを行う活動もされていますね。
はい。SRHRとは、自分の体は自分のものとして自己決定が尊重されることを当たり前にしようとする考え方です。具体的には、性的嗜好や性自認、性交渉の相手や性交するかどうか、結婚相手や結婚するかどうか、子供を持つかどうかなどについて、自分で決められる、ということです。
薬局では、妊娠検査薬、経口避妊薬、緊急避妊薬、性感染症の薬などを扱い、月経用品や避妊用具も販売しますから、性や生殖の課題に対して、情報提供をする責任もあります。薬剤師の活躍で、自分の体のこと、性のことを、母親やパートナーなど人任せにせず、自己決定するサポートができるのではないかと考えています。
現在は、以前薬局で思春期の人向けに開催していた講座・相談会を「SRHRpharmacyPROject」の活動「ユースフレンドリーファーマシー」(若者が相談しやすい薬局)として、近隣のカフェなどにも出向いて行っています。
薬局内だけでイベントを行っても、なかなか注目してもらえません。地域のさまざまな場所や人と連携してこそ、地域の人のための活動になります。

——ユースフレンドリーファーマシーはどんな内容ですか。
子供向けの性に関する本を自由に読めるようにしたり、月経用品、避妊や性交用品の展示をしたりしています。親世代向けの「性教育」をテーマにした講座と意見交換会、HPVワクチン※3講座などの企画もあります。性は、女性だけの問題ではありませんから、男の子・男性に情報を届けることも目指しています。少しずつ浸透して毎回楽しみにしてくれる参加者もいます。
月経や性行為について具体的な相談を受けることもあります。「SRHRpharmacyPROject」は、薬剤師が正しく相手の尊厳を守りながら相談を受けられるように勉強していく団体ですから、会員同士の勉強会も積極的に開いています。
社会の変化に合わせて進化する薬学教育
——鈴木さんが地域に根差した活動をしているのは、6年制薬学教育の影響が大きいのでしょうか。
原点は両親です。両親が薬剤師で、地域のいろいろな人の相談にのる薬局で働いているのを見ながら育ったので「地域の人たちを笑顔にしたい」という思いは、入学前からありました。大学ではもちろん、地域の健康をトータルで考える大切さをしっかり教えていただきましたが、女性の健康のことはカリキュラムにもほとんどなく、今あらためて勉強しています。
私が卒業後、薬学教育モデル・コア・カリキュラム※4は2度変更になって、現在は女性のヘルスケアについても学ぶようになりました。2024年度の入学生からは、プレコンセプションケア(男女ともに将来の妊娠に向き合い、互いの生活や健康に向き合うこと)も学ぶと聞いています。今後は、女性のヘルスケア、性に関する相談に対応する力を、大学で身につけられると思うので、期待しています。

——今後の目標を教えてください。
年代にかかわらず、男性も女性も自分の体のことを考える時間を持てるように働きかけていきたいですね。そして、仲間になってくれる薬剤師を増やして、地域に1軒は、女性のヘルスケアに力を入れる薬局があるという状況を全国に広げていきたいと思います。
さまざまな相談を受ける中で、地域の専門職につなげたほうがよい事例があることが分かりました。例えば、性の悩みや相談の中から、虐待や生活困難の背景が推察されることもあります。そういうときは、「相談されたから」と自分でなんとかしようとするのではなく、行政の保健師や適切な部署と連携を取れるようにするべきです。学校薬剤師※5の活動や、自治体主催の健康講座への協力などを通して、地域のさまざまな専門職の方と交流を深め、有効なトータルサポートができる体制を整えていきたいと思います。
※1SRHR SexualReproductiveHealthandRights(性と生殖に関する健康と権利)
※2骨粗鬆症 骨の量が減って骨折しやすくなる病気。閉経後の女性に多い病気で、発症に女性ホルモンが関係すると考えられている。
※3HPVワクチン 小学校6年生から高校1年生までの女子が接種対象となるHPV(ヒトパピローマウイルス)感染症を防ぐワクチン。HPVは性的接触のある女性であれば50%以上が生涯で一度は感染するとされ、子宮頸がんなど多くの病気の発生に関わる。
※4薬学教育モデル・コア・カリキュラム 第2章参照
※5学校薬剤師 幼稚園から高校まで、学校の飲料水の水質、教室の換気や明るさなど衛生状態が適切であるか確認、指導する。医薬品や健康の相談にも対応する。


