コロナ患者の命を支える在宅治療
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- 1月6日
- 読了時間: 6分
更新日:3月6日
特集
未来の社会や地域を見据え、多様な場や人をつなぎ活躍する薬剤師
―多職種の連携のもと薬剤師の本領発揮―
医療法人香徳会 理事長 加藤公彦さん
あすか薬局 楠清美さん
在宅看護センター愛 小林恵子さん

2022年1月、新型コロナウイルス感染第6波に襲われた愛知県名古屋市は、病床のひっ迫に伴い在宅での治療体制の整備を進めました。医師の加藤公彦さんは名古屋市からの要請を受けて、名古屋市名東区内の医師会、薬剤師会、訪問看護ステーション連絡会、保健センターといった多職種と連携し「名東コロナバスターズ」と名付けた医療チームを結成。コロナ自宅療養者のために職種の垣根を越えた強固な連携体制を新たに構築しました。メンバーの一員である薬剤師の楠清美さん、訪問看護師の小林恵子さんらとともに2022年12月までに200例以上の患者さんに関わり、在宅で治療されたコロナ患者さんの命を在宅治療で支えてきました。その結果、患者さんの多くは無事に快復し、社会復帰しています。
情報共有が可能にした機動性の高いオンライン診療
加藤公彦さん(以下加藤):チーム内の情報共有は通信アプリ「LINE」によるものでした。保健所からの依頼内容、患者さんの住所などの情報、訪問看護師に向けた酸素投与などの指示、薬剤師向けの処方指示、そのほか診療に関するあらゆる情報を共有しました。チームメンバーには、医師、薬剤師、看護師のほか、保健所長や患者さん、そのご家族が含まれます。
楠清美さん(以下楠):薬剤師は、LINEの処方指示で、あらかじめ患者さんが使用している薬との相互作用や禁忌を確認、そして処方箋のファクスが届いたら調剤し、配達を行うほか、薬を患者さんに納得して使ってもらえるようわかりやすく説明する役割も担いました。使用後の効果や副作用の発現を観察し、その状況を医師にフィードバックするのも私たちの役割でした。
看護師からの「咳はこのくらい出ている」「薬を飲み込むのが大変そう」といった情報をもとに内服から外用に変えるなどの提案をしました。
小林恵子さん(以下小林):私たち訪問看護師が患者さんのお宅に最初にうかがう役割なので、「医師や薬剤師の目になって、必要な情報を短時間にキャッチしよう」と、緊張感をもって訪問していました。訪問の件数を重ねると、医師や薬剤師が何を見てほしいのかもわかってきます。見たままを伝えれば適切に対応してもらえると信頼していたので、看護師本来の業務を不安なく行うことができました。

患者さんの満足につながった多職種による対応
加藤:LINEを用いたことによるメリットは極めて大きかったと思います。保健所長がメンバーに入っているので、病院を手配する必要があればすぐ対応してもらえます。家族の協力が必要な処置があれば、視覚的に説明できます。薬の処方が土日や夜間になるケースもありましたが、その場で処方内容をラインで送り迅速に薬剤を届けることができました。
楠:処方依頼が夜になった場合、私は「患者さんが不安だろう」「待っておられるだろう」と思ってその日のうちに夜遅くご自宅へ持っていくなどしていました。
加藤:その苦労が患者さんの高い満足度につながったと思います。
今回、LINEを使って多職種の視点を共有することができたことも、大きな成果につながりました。医師だけでは気づきにくいこと――例えば製剤カプセルの大きさといったことについて、患者さんの状況を踏まえて「飲みやすい剤形に変更する」といった工夫を、楠さんがLINEで連絡を取り合ってやってくれました。
状況が刻々と変わるコロナの患者さんの薬剤管理

加藤:新型コロナウイルス感染症の症状は発熱、喉、咳と変わっていきますが、その変化はある程度共通しています。そこで、複数の薬を前もってお渡しするようにしました。そうすることで、処方を出すスピードが上がり、薬剤師は必要な薬剤の予測が立つので慌てて手配せずに済みます。
その後、患者さんの症状改善の状況を薬剤師と相談しながら「この薬は今日でやめてよし」と判断していくようにしました。
小林:初めに多くの薬が処方されるので、もともと複数の薬を服用しているような高齢者はポリファーマシー※の状態に陥りがちです。私たち訪問看護師が残薬を確認し、薬剤師と連携して整理する作業を行いました。
楠:治療開始にあたり、患者さんの背景や服用薬を考慮して、コロナの治療薬の選択や併用薬の整理を依頼される場合もありました。コロナの治療薬には、一緒に服用できない薬がたくさんあります。それらに関係しない薬でその患者さんに適した薬を選択して提案したり、10種類以上の薬を服用している患者さんには、コロナの治療を最優先して、それ以外の薬で減らすことができる薬を提案したりしました。

加藤:患者さんによって副作用の出方は異なるため、減薬のタイミングを見極めるのは容易ではありません。以前、オンラインで風邪薬を処方したところ、2日目から下痢症状が出たとの連絡がありました。おそらく副作用ですが、処方薬の中のどの薬が原因かがよくわかりません。そんな時に楠さんは「この状況ならこれとこれを止めてもいいのでは」といったアドバイスをくれるので非常に助かりました。
薬剤師の対人スキル向上が今後の在宅医療のカギ
楠:認知症で独居の方が作用の強い薬を誤ってたくさん飲む恐れがあったので、毎時間電話を入れ確認したこともありました。
高齢者にはLINEを扱えない方もいます。その場合のやり取りは電話になりますが、薬のことだけでなくさまざまな不安を30分にわたって話される方もいました。
加藤:医師には話せないけど、薬剤師や看護師であれば話せることがたくさんあるのだと思います。楠さんたちが患者さんの不安に寄り添ってくれた意義は大きかったと思います。
しかし、逆に言うと、そこまでやってもらえたからこそ家で診る、つまり在宅治療で命を支えることができたわけです。
楠:今回の取り組みで、加藤先生は私たち薬剤師を信頼して薬の選択、増減などの判断を任せてくれました。責任は大きかったのですが、患者さんがよくなっていく様子を目の当たりにすることが、命を支えていることの実感につながり、大きなやりがいでした。
今後は、薬のことだけでなく、自宅環境の整備といった生活全般に関するアドバイスなどにも積極的に関わり、地域の方が在宅で安全安心に暮らせるようサポートしていきたいと思います。


※薬剤が多いことにより、有害事象につながる状態や飲み間違い、残薬の発生につながる問題のことをいう。