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がん治療にかかわる

更新日:3月6日

特集


生命をささえる薬剤師 〜病院の薬剤師と薬局の薬剤師が連携して、がん患者をサポート


国立がん研究センター東病院薬剤部 川澄賢司さん

日本調剤柏の葉公園薬局 下村直樹さん


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がん治療には、外科療法、放射線療法、化学療法などがあります。化学療法は、薬でがん細胞の増殖を抑えたり、破壊したりする治療法で、薬剤師の関与が欠かせない分野です。患者がいつもの生活を続けながら病院に通って治療する外来治療が多くなっている現在、病院内の薬剤師と病院の外にいる薬局薬剤師の連携が重要になっています。国立がん研究センター東病院薬剤部の川澄賢司さんと、日本調剤柏の葉公園薬局の下村直樹さんに仕事内容や連携の様子を伺いました。


病院では「薬剤師外来」で診察前に患者の状態を確認、服薬中は薬局でもモニタリング


川澄賢司さん(以下川澄):国立がん研究センター東病院は、その名の通りがんを専門に診る病院です。ここで働く薬剤師は、医師の立てた化学療法計画について、個々の患者の状態を考慮したうえで、適切な量やスケジュールとなっているか、チェックする役割を担っています。患者に薬の飲み方や注意点の説明もします。患者から薬を使った後の体調や、副作用の症状なども聞き取ります。

 入院せずに通院で行う「外来」でのがん治療が増えていて、多くの患者は、病院に来て薬剤を点滴したり、自宅で毎日抗がん剤を飲んだりといった治療を受けています。診察を受けて処方箋を受け取って帰るだけでは、医療スタッフが患者に接する時間がどうしても少なくなりがちです。当院では「薬剤師外来」として、飲み薬で治療をしている患者を対象に、医師の診察の前に、薬についての困ったことを薬剤師に伝えることのできる機会をつくっています。体調や副作用について聞き取り、診察前に医師と情報共有し、よりよい治療に役立てています。

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下村直樹さん(以下下村):私は国立がん研究センター東病院の向かいにある薬局で、処方箋を持ってきた患者に、抗がん剤や副作用を抑える薬などを調剤しています。抗がん剤はスケジュール通りに飲まないと狙った効果が得られないので、飲み方の説明は薬局でもしっかり行います。

 薬局での特に大きな役割は、抗がん剤によってどんな副作用が出るか、それによりどんなことに困っているか、継続して確認するモニタリングです。薬を渡してから次の診察までの間に電話でフォローアップをします。治療が初めての人、薬が変更になった人、話していてフォローが必要だと感じられた人などが対象です。副作用の対応についてアドバイスし、必要であれば追加で電話による経過観察を行い病院に報告します。

 薬の飲み方という点では、抗がん剤については、多くの患者が処方通り正しく飲むことができますが、副作用対策の薬は、症状が出たら飲むものだけでなく、出る前に予防で飲むものや、症状に応じて量を調節するものなど種類も多く、コントロールが難しいものです。そのため特に丁寧に説明するようにしています。薬局は、患者が診察を終えて最後に立ち寄るところですから、病院での薬の説明が理解できているかどうかの確認もしています。


勉強会で病院と薬局で治療方針を共有し、知識・スキルを高め合う


川澄:病院では飲み薬の抗がん剤の治療を受けている患者は、医師の診察後に薬剤師が関わることが少なく、そこを薬局でフォローアップし、モニタリングをしてもらえることはとても助かります。

 そして、外来治療が増えている今、薬局で患者の理解度をチェックし、適切に説明ができることもとても重要です。それだけに、病院と薬局で説明内容が異なっていたら、患者はどちらを信じてよいかわからず困ってしまいます。治療がうまく進まない原因にもなりかねません。そこで、数年前から病院と薬局の薬剤師が定期的に連絡をとる機会をつくっています。

 月に1回勉強会を開いて、副作用対策の統一、薬の使い方の相互確認の他、病院と薬局からそれぞれ1例ずつ症例を出してディスカッションしています。

下村:最新のがん治療の情報が得られるのも大きなメリットですが、病院の薬剤師と顔を合わせて、どのような考えや方針で治療と患者指導を行っているのか定期的に認識をすり合わせられること、個々の患者の状態についても細かい確認ができることが役立っています。

川澄:こうした認識のすり合わせを前提として、病院からは、治療の開始時や薬の種類や量などに変更があった時などに、その内容をお薬手帳(脚注参照)に貼ったり連絡書を作ったりして薬局に情報提供をします。患者の肝臓や腎臓の状態、薬の選択にも関連するがんの遺伝子変異タイプなども基本情報として伝えています。

下村:薬局に患者が持ってくるのは処方箋だけです。そこには、治療方針や患者の背景までは書いていないので、適切な服薬の指導をするうえでとても助かっています。


月に1回勉強会を開いて病院薬剤師と薬局薬剤師が症例などについてディスカッション
月に1回勉強会を開いて病院薬剤師と薬局薬剤師が症例などについてディスカッション

辛い治療を続ける患者の心に寄り添う


川澄:薬局でのモニタリングとそれを治療に活かした事例にはこんなものがあります。

 吐き気の副作用が強く出る患者の事例です。この患者は、当初は吐き気止めを使って副作用を抑えることができていたのですが、薬局からフォローアップで電話をかけたところ、患者は「吐き気が辛い」と訴えました。そこで薬局の薬剤師が「使用量が少ないからもう少し増やした方がよい」とアドバイス。その後、薬局から電話で経過を確認すると「よくなった」という報告がありました。しかし同時に「今はよくなったものの、吐き気や食欲不振はとても辛かった」と悩みを話されました。

 こうした一連の訴えの流れを、薬局から病院に報告をいただいたので、病院では医師と共有して、次の治療では、吐き気止めを強化した治療方針に変更して進めました。


診察前に患者の状態を確認する薬剤師外来の様子(右が薬剤師)
診察前に患者の状態を確認する薬剤師外来の様子(右が薬剤師)

 副作用を適切にコントロールして患者の治療意欲を高めることはもちろん、辛いときに電話をもらえることは心強いと思います。薬剤師外来でも、医師の診察の途中では話せなかった患者の思いを聞いて受け止めることで、その後の薬物治療に役立てているところがあります。日常的な会話ができるからこそ「患者本人は気づいていないけれど実は副作用」といった症状を聞き出すことができます。

下村:私もそれは感じており、電話での会話の中ではささいな情報から潜在的な問題を拾い上げるようにしています。ほとんどの患者が副作用を経験する抗がん剤治療では、薬局で受診間のフォローアップを行うことで、患者が治療を続ける意欲をささえ、患者に寄り添っている家族の不安も軽減できるということを感じています。


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 また、窓口での説明で、患者から「気持ちを聞いてもらえてよかった」という声をいただくこともあり、精神的なケアも心がけています。

川澄:電話でのフォロー、モニタリングは、治療全体の中ではささいな介入に見えるかもしれませんが、患者にとってはとても大きいことだと思います。下村さんの薬局との間で、薬剤師同士の連携による患者サポートができていることはとてもよい成功例です。今後は他の薬局、他の病院にもこうした連携を広げていきたいと考えています。

下村:薬局では、薬局間の連携強化が必要だと感じています。当薬局の患者の中には、がんに関わる薬のみこの薬局で受け取り、それ以外の持病などの薬は、住まいに近い地域の薬局で受け取るという患者も多くいます。持病の薬ががん治療に影響する場合もありますが、お薬手帳だけでは情報が不足することもしばしばです。新しくがん治療を始める患者について、地域の薬局と連携して、他の病気や薬、生活状況などの情報共有を行い、治療精度の向上に貢献したいと思います。

薬の専門家からのアドバイスが、がん治療には欠かせない


がんの化学療法では、安全な治療が行えているかどうか、医師の視点と薬剤師の視点でダブルチェックが必須です。

医師は「がんの増殖や転移をどうにかして強く抑えたい」との考えを優先するあまり、より強く、より効くであろう治療を選択する傾向にあります。薬剤師は、そのストッパーとしての役割を果たし、患者が服用している他の薬の影響や副作用の可能性などを広く総合的に考え、治療計画策定のアドバイスをくれるので、とても助かっています。

 がん治療は日々進化し、抗がん剤も副作用対策の薬剤も、種類が増えています。医師は薬の専門家ではないので、抗がん剤の知識はあっても副作用の薬のことまでは詳しくはわからないことが多く、患者一人ひとりに合った治療には薬剤師との連携が欠かせません。抗がん剤による治療はとても辛く、途中でやめたいと思う患者も少なくない中、副作用を和らげてくれる専門家がいてこそ、患者は前向きに治療に取り組めるのです。

 外来治療が増え、薬局の薬剤師との連携も増えていますが、病院では話せないことも薬局では話せる患者も多くいるようです。治療の精神的なささえにもなっているでしょう。今後も、薬の専門家の立場からの提案を積極的に行って、医師と患者をサポートしてほしいと思います。


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国立がん研究センター東病院

消化管内科・総合内科


三島 沙織さん

日本消化器病学会

消化器病専門医


※お薬手帳

いつどこでどんな薬を処方してもらったかを記録する手帳。患者一人ひとりが持ち、受診の時に、医師や薬剤師に見せると、どんな薬を使っているか伝えられ、薬の重複を避けたり、一緒に飲んではいけない薬を処方しないようにしたりできる。

 
 
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