在宅医療にかかわる
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- 1月1日
- 読了時間: 6分
更新日:3月6日
特集
生命をささえる薬剤師
―チーム一丸となって、最期を迎えるまで療養生活をサポートする―
まるやまホームクリニック 丸山典良さん
ファーマシィ薬局春日在宅ケア 平田恭洋さん
福山市医師会訪問看護ステーション 石原喜和子さん

自宅で最期を迎える患者をサポートする在宅緩和ケアチーム。最期は家族と一緒に自宅で過ごしたいという患者の要望をかなえるため、薬剤師は、心身の苦痛に耐えながら療養生活を送る患者に対して医師や看護師、ケアマネジャーなどと連携を図り、よりよい医療の提供に努めています。まるやまホームクリニック院長の丸山典良さんとファーマシィ薬局春日在宅ケアの平田恭洋さん、そして福山市医師会訪問看護ステーション管理者の石原喜和子さんに在宅緩和ケアの現状、薬剤師の役割などについて伺いました。
自宅で最期を迎える患者をサポートする在宅緩和ケア

丸山典良さん(以下丸山):緩和ケアは、特定の病気を指すわけではありませんが、例えばがん、心不全、呼吸不全のような生命を脅かす重い病気を持った方の身体的痛みを和らげるとともに、患者や家族の心理面もサポートする医療のことです。
初診時は、病状が急変して意識が戻らなくなり、自分の意思で何か決定することができなくなった場合に備えて、元気なうちに延命治療や受けたい医療・受けたくない医療などについて、者・家族と話し合い、最善のケアを決めていきます。そこには、医師をはじめ、歯科医師、薬剤師、看護師、ケアマネジャー、メディカルソーシャルワーカー、ヘルパーなど、多くの職種が参加しており、チーム全員が情報共有することで、より質の高い医療・介護サービスが提供できる体制を整えるのです。例えば、症状が急変した場合、病院に搬送するのか、自宅で対応するのかといったことを事前に決めています。
平田恭洋さん(以下平田):緩和ケアでは、医療用麻薬や注射薬といった外来では取り扱いが難しい薬を取り扱い、「人生の最期にどうありたいか」という患者の思いを意識しながら薬物治療を提供します。
在宅緩和ケアでの薬剤師の役割は、身体的な苦痛を和らげてあげることです。医療用麻薬は注射剤、経口剤、貼付剤といった剤形があり、さらに痛みの原因、種類に応じて使い分けなければならないため、患者の状態を把握したうえで、どの薬が最適なのかを考えます。患者が話せない状態であれば、家族から聞き取ることもあります。

石原喜和子さん(以下石原):看護師の役割は、医療の部分と生活の部分、両方の視点から患者が希望するその人らしい暮らしを支えること。医療の部分では病状の把握、日頃の健康チェック、医療的な処置をします。生活の部分では、患者の食事や排泄、清潔の部分をサポートしています。在宅で生活するためには、病院と違い、患者や家族はいろいろな不安を抱えており、それを軽減するための精神的な支援も行っています。
チーム医療は情報共有が不可欠
丸山:在宅医療において、医師が訪問診療する回数は限られているのが現状です。そのため、薬剤師や看護師から得られる情報は有益です。痛みが軽減しない場合は、看護師からの身体状況に関する情報、薬剤師からの医療用麻薬の処方提案を考慮して、治療法を決定することも少なくありません。繰り返しになりますが、日々刻々と変わる患者の状態をケアするためにチームで関わることが重要で、誰一人欠けてもいけません。
石原:現場ではたくさんの薬や医療機器などがあり、特に処方が変更になった際、剤形や処方量が変わるので、不安になることもあります。その点をサポートしてくれるのが薬剤師。ケアしている中で、薬が飲みにくくなったり、皮膚の状態が悪くなったりした時に、何かいい薬はないかといった相談をすることもあります。


平田:注射薬の投与のために、たくさんの医療材料や医療機器を使用し、注射薬を混注することもあります。このような複雑な工程を看護師などが安全に対応できるように、それらの情報を正確かつ適切に伝えることが重要です。
丸山:在宅は病院と違い、電子カルテを見てもすぐに患者の治療計画や体の状態を把握することはできませんし、医療者がいつもそばにいるわけでないので、手厚いケアもできません。それを補完するのが、チーム医療であり、チーム内で緊密な情報共有をすることです。
平田:情報共有に関しては入院時にも行います。病院では、入院時の持参薬の鑑別に1時間くらいかかっていました。それを解消するために、薬の用途や数を示した一覧と、薬を一つのパックにまとめたものを入院する患者に手渡しています。さらに、病院(薬剤部と地域連携室)に対しては、在宅での療養生活中に起きたイベント、薬が処方された経緯などを報告しています。情報の橋渡しも薬局の薬剤師の役割の一つです。
地域で顔の見える関係を構築するために「在宅どうしよう会」を設立

丸山:福山市では、「在宅どうしよう会」を10年前につくりました。医師、薬剤師、看護師、ケアマネジャーを含めた介護系のスタッフから構成され、今では毎回100人前後集まる会までになりました。顔の見える関係をつくるだけでなく、福山市の在宅医療・介護の標準化も図っていきたいと考えています。
石原:さまざまな職種からの話が聞けるので、広い視野で物事を見られるようになりました。いろいろな現場で顔を合わせるので、一緒に仕事をする際も連携が取りやすいと感じています。
平田:薬局の中にだけいるとわからない話もありますし、情報交換の場として有益な場だと思います。また、会が円滑に進むように薬剤師が事務局の運営を行っています。
薬剤師は社会的なことに挑戦してほしい
丸山:高齢化率が高まっていくと、在宅業務が主体になるかもしれません。薬剤師にはどんどん外に出ていってほしいということが一つ。在宅に行くと患者の生活があっていろいろなものが見えてきます。さまざまな話をする中で、単に患者と家族という関係ではなくて、人と人とのつながりができ、信頼関係が構築されます。すると、地域全体を見ようという意識が芽生え、地域をなんとかしようという行動につながると思うのです。薬の専門職としてチーム医療に参画するのはもちろんのこと、薬以外のこと、例えばアドバンスケアプランニング(終末期を含めた今後の治療・療養について患者・家族と医療者があらかじめ話し合うこと)の普及啓発であるとか、ボランティアの養成であるとか、社会的な活動にもチャレンジしてほしいですね。
石原:薬のサポートだけでなく、患者のライフスタイルや嗜好などトータルに見ることが在宅医療では重要です。そうすれば、日頃の薬局での指導もおのずと変わってくると思います。
平田:医療提供体制の在り方が病院から地域へ移行する中、在宅医療で活躍する薬剤師も増えています。しかしながら、他職種への情報提供など、薬局によって対応が異なることがあるため、スムーズに連携が取れないこともあります。今後は薬剤師どうしのつながりを強化して、地域全体で取り組めるようにしたいと考えています。