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漢方薬のサイエンス治療効果の薬理学的エビデンスを明らかに。

更新日:2月13日

研究室訪問



 

岩崎 克典 教授

いわさき・かつのり中枢神経系疾患に有効な漢方薬の探索を中心に、行動薬理学的、分子生物学的、電気生理学的な研究を推進している。漢方薬の効果を最新の薬理学を用いて実証することは「エビデンスベイスト漢方」として新しい漢方治療に大きく役立っている。多くの有効生薬が組み合わされて発揮する薬効を現代の科学で解き明かす、言い換えれば配合の妙のサイエンスを極めることが、東洋医学と西洋医学の橋渡しの大きな力になると信じて研究を続けている。

 

 漢方の世界では古くから「配合の妙」という文言があります。まさに薬師のさじ加減の原点です。私たちは漢方薬の構成生薬の薬理作用を明らかにし、その配合の意味を科学的に証明する、これを「配合の妙のサイエンス」と自称し、研究室の目標に掲げています。

 近年、認知症対策は社会全体の問題として取り上げられるようになりました。中でもアルツハイマー型認知症は難治性で現在のところ発症したら症状の進行抑制が精一杯で治療は困難を極めています。最近の日本認知症学会において、アルツハイマー型認知症では、発症の20年ほど前から脳内にアルツハイマーの組織病変が始まっていることが報告され、全く症状の出ていない時期からの治療が必要であると言われています。

 私たちの研究室では認知症の漢方治療に取り組んでいます。研究は、患者で試すことはできないため、アルツハイマー型認知症のモデル動物を考案して使用しています。



 私たちは、子供の夜泣きなどに使用されていた漢方薬であるよくかんさん抑肝散が、認知症患者の不安症に有効であるという症例報告に着目し、アルツハイマー型認知症への応用について検討しました。中核症状として空間記憶障害、周辺症状として攻撃行動、不安行動、うつ状態、不眠症状、夜間徘徊、せん妄などを取り上げ、抑肝散がこれらについて有効であることを動物実験で実証しました。研究結果を学会や論文で発表したところ、医師が診療に生かしたという声も多く聞かれました。

 抑肝散がどのように脳に作用したのかという作用機序についても研究を進めました。その結果、抑肝散が海馬のアセチルコリン遊離を回復させ、前頭前野のセロトニン遊離も改善することがわかったのです。

 最近では、抑肝散のみならず、特に記憶障害に対しては八味地黄丸、加味帰脾湯、人参養栄湯の有効性、周辺症状に対しては酸棗仁湯、加味逍遙散などの作用を臨床症例に照らし合わせながら機序解明に奮闘しています。

 伝承医学を元に発展してきた漢方(東洋医学)を尊重したうえで、それがなぜ効くのかを現代のサイエンス(西洋医学)で実証することは、新しいトランスレーショナルリサーチを構築できるものと確信しています。


培養細胞へ漢方薬を作用
培養細胞へ漢方薬を作用
人工シナプスの変化を観察
人工シナプスの変化を観察
認知症モデルマウスで実験
認知症モデルマウスで実験
実験結果をディスカッション
実験結果をディスカッション

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